自社サーキットを建設してモータースポーツを顧客に届けるメーカー達

自動車ブランドにより次々と建設されるサーキット
大規模な周回コースを含む複合施設の建設が2020年にポルシェジャパンにより発表された。千葉県の木更津に建設中のコースは高低差を持たせ、車両の性能を存分に試すことができる本格的なレイアウトのトラックになり、普段は発揮することができないパフォーマンスカーの性能を解放させることができる。
高級輸入車の総代理店であるコーンズも同年に南房総に会員制のドライビングクラブを開設する。全長3.5kmのコースはコーンズが取り扱うフェラーリ、ランボルギーニ、ベントレーなどの性能を安全に楽しむことができ、併設する宿泊施設を含めて総合的に顧客体験を作り出すことを目的としている。近年、自動車を製造・販売する立場の企業が本格的なサーキットを建設し、ブランド体験をより強化する狙いはなんであろうか?

写真:コーンズが2022年のオープンに向けて建築途中のサーキット併設型の会員制リゾート施設 THE MAGARIGAWA CLUB。プールからサーキットを走る車を見渡せる。

画像:MAGARIGAWA CLUBサーキットトラックの予定図。全長3.5kmの本格的なトラックであり、直線部分ではパフォーマンスカーの最大加速も楽しめる。

 

解き放たれる性能/最高の体験
とてつもないパワーを持ったスーパーカーも法定速度を守った日常では、ごく一部しか力を発揮できない。フラストレーションは貯まり、車の価値は下がる、そんな飾りにしかならない車が、最高の体験をもたらせてくれるおもちゃに変わったら消費する金額も増えるだろう。
自分の車でありながら、まだ体験したことの無い本当の性能を自分で操る! この最高の体験から充足感/優越感/喜びを感じてもらえば、長くファン(ロイヤルカスタマー)でいつづけてもらうことができる。

 

総合的なブランド体験へ
今までもサーキットへ行けば走行会などでパフォーマンスカー本来の性能で走らせることはできたが、それはサーキット走行単体でのアクティビティであり、高額な車両でスポーツ走行を楽しむ顧客が求めるサービスをトータルで満たしてはいなかった。近年各地に建設されているサーキット併設型のブランド体験施設は、富裕層が求めるレベルの食や宿泊、ショッピング等も一流を揃えることで車から派生する最高のユーザー体験を総合的に創り上げようとしている。自動車メーカーによる、「車の性能でのブランド表現」から「車から広がり、連続する体験によるブランド表現」へのシフトである。

写真:高級感のあるバーラウンジやレストランも備え、限られたメンバーで優雅な時間を過ごせる。最適な環境に管理されたガレージに大切な車を預けることもでき、メンテナンス等も専任のメカニックに任せることができるなど

 

クローズドでディープなコミュニティ
高額な車を所有するオーナーはプライベートではランダムな人間関係ではなく、同じ社会階層の中での深い人間関係を好む。そのためコミュニティはクローズドで限られたメンバーだけであることが好ましく、コーンズの提供する施設を会員型にすることにも合う。ちなみにコーンズの募集した初期会員枠は全てソールドアウトしており、人気の高さが窺える。
この施設は、サーキット走行を味わうだけで無く、新たな人脈が築けるコミュニケーションの場となるだろう。普段話す相手が少ない高級車、Motor Sportsの話で盛り上がり、共に走り、共に食事する、最高に楽しい仲間が集うコミュニティが生まれる。
最新モデルやカスタマイズモデルが走行する姿を見た人が、ディーラーに駆け込み、次に来たときには日本で1台しか無いモデルに乗ってきたなんてことがおこりそうである(笑)

 

EVでMotor Sportsが拡大する?
高性能なガソリン車でしか得られなかったパワーを持ったEV車が低価格で出てきたことで、より多くの人がMotor Sportsに触れることが出来るようになるかも知れない。(例えば713万円で購入できるTesla Model3 Performance Packは時速100kmまで加速するのに3.4秒しかかからず、これは1729万円のポルシェ911カレラSより速い。)

画像:ポルシェ911 カレラS

 

ブランドの未来へ
ブランド体験を強化するアプローチはそれぞれのブランド次第で様々あるが、自動車という移動体の性能で感動を提供できた過去から、車を楽しむライフスタイル全体を提案するスタイルのブランド体験の必要性が今後より進むであろう。

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